劉慈欣 著の『三体』シリーズを読んでみました。
書店でも見かけていましたが、なかなかの分厚さと巻数で尻込みしておりました。しかし、三宅香帆さんのこの本を読んだときに興味を持ったので1巻を読んでみました。
三体1巻
なかなか読み進めるのが難しい序盤
序盤が物語の重要人物の葉文潔の過去から始まるのですが、中国の文化大革命中らしく、難しい単語が飛び交い、理解するのが難しかったです。とは言え、著者の文学的センスには感心してしまいました。
文潔が紅岸基地で働くことになった際の一幕ですが
すべてが静寂に包まれた。なおも聞こえているのは、アンテナにぶつかる風のうなりだけ。鳥の群 れが森へ帰っていく。文潔はふたたびアンテナを見上げた。それは、空に向かって開かれた巨大なて のひらのようだった。世俗を超越した神秘の力を持っているように見える。文潔はそのてのひらに対 峙する夜空を仰いだが、座標番号BN20197Fとおぼしきターゲットはどこにも見えなかった。 薄くたなびく雲のうしろにはただ、一九六九年の冷たい夜空の星々が輝くばかりだった。
p.52より
アンテナを「てのひら」に例えてその手のひらを空に向けているという情景を思わず想像してしまいましたね。
王淼の場面になってから
今作の主人公・王淼のターンになってからは打って変わって読みやすくなります。科学フロンティアへの参加の声がかかってから自分の目にだけ謎のカウントダウンが始まり、天体ではあり得ない現象が起き(ここは物理学の専門的な事なので殆ど理解できませんでした)、文章を読むだけで王淼の身に危機が迫りつつあるのを感じます。
また、作中内ゲームの「三体」もその後明らかになる三体文明の生態や置かれた環境を反映していて伏線になっています。
あなたたちの地球侵略を手伝ってあげる」
王淼が葉文潔と接触し、その後彼女こそが地球外知的生命体とコンタクトを取り、地球侵略の手伝いをする組織の長であることを知るのですが、とある地球外知的生命体からの「これ以上メッセージを出すと居場所が特定され、侵略されるぞ」という警告に対しての返答として見出しのメッセージを送ります。
彼女は文化大革命で父を亡くし、社会的にも乏められ、文明が地球環境を顧みずに開発を推し進める様を見て、人類に対して絶望しての行動でした。この中には文化大革命時代の関係者が皆一様に過去を顧みずにさも無かった事のように生活している様を見た事も関係がありそうです。
隣の芝生は青く見える
文潔に対して警告を送った三体文明人はその後この文明の元首から詰問されますが、その際に三体文明の過酷な環境とそれを生き抜くために厳しい戒律や、「文明が生き延びる」という目的のためだけに自分が使われ余命短くなり、生殖活動をすることもままならなくなった現状を悲観し、地球文明が三体文明に侵略されるのを防ごうとします。これは地球において文潔が地球文明に絶望し三体文明に侵略を手伝うと申したことの対比のように感じました。
三体Ⅱ上 黒暗森林(2022/11/19追記)
三体文明の方が遥かに技術が進んでいてこのまま戦争が起きれば惨敗するのが目に見えている中、人々はその危機に備えなくてはならない状況に置かれた為に悲観的になる人や関係ないと感じ日々を過ごす人たち、戦闘に備えて軍備増強をする人々などが出てきます。また、三体人たちは智子(ソフォン)というものを地球に送り込んでいて、それによって文書、話している内容などが筒抜けの状態になっており、智子の妨害によって基礎研究の発展も望めなくなってしまいました。
そこで各国が導き出したプロジェクトというのが面壁計画(ウォールフェイスプロジェクト)です。
これはどのようなものかと言うと、三体人達は考えた事を相手の視界に文字として発するらしく、「思う」と「話す」が同義語なのだとか。つまり、嘘をつく事ができず地球人のように思考と言動が一致にしない事ができないです。
その唯一の弱点を突く為に面壁者(ウォールフェイサー)という、完全にある人物の頭の中だけで対策を考えて実行に移すというものです。
気になった人物
羅輯
社会学の教授を勤めていますが、はっきり言ってしまうとダメ人間だなぁと感じたのが第一印象でした。彼女の名前を把握していないというのは如何なものか(笑)。ですが、何故か面壁者に選ばれてしまい突然命を狙われるようになってしまいます…。巻き込まれ系主人公の王道を行きますよね。
「俺は面壁計画なんて知ったこっちゃ無い!」と言っても「それも計画の一部なのでは?」と勘繰られでしまいまともに受け取ってもらえません。災難だ…。
まだ、上巻の段階では彼のしたことは種蒔きにあたるので下巻でどのように身を結ぶのか気になります。
史強
頼れる兄ちゃんでしたが、無印三体(つまり前巻)で被曝による白血病で医療技術が発展する未来まで凍結保存される事に…。今回の彼は前巻以上に頼り甲斐がありましたが、何となく読んでいる最中から「退場しそうだなぁ」と不安を抱いてしまいました。
章北海
羅輯とは直接関わりがないにも関わらずかなり細かく描かれているので主要人物であることは間違いないですが、彼は父から「容易に他人に自分の考えを見抜かれるな」という教えを受けているためか、読者目線から見ても「一つ一つの行動は見えても思考が見えない人物」という印象を与えます。面壁者適性が高そうだと感じました。また、目的を達成するために準備を怠らず、計画立案から遂行させるまでの流れはとても鮮やかでしたね。
ただし、現実世界では彼のような何を考えているか他者から分かりづらい人は信用されないのでこの生き方はオススメできないなぁ…と個人的には思ってしまいます。
また、下巻も読みましたら更新しようと思います。
三体Ⅱ下 黒暗森林(2022/12/03更新)
オーディブル版の聴き放題対象で三体も聴くことができたので現在聴いております。
羅輯と史強は読んでいくうちに好感を覚える人物になるように造形されたのかなと勝手に想像しています。
そして特に印象に残ったのが章北海ですね。ネタバレになってしまいますが彼の真の目的が逃亡だったとは…本人は「逃亡ではない」と言っていても結果的に逃亡になりますよね…。
「黒暗森林」タイトル回収
下巻終盤になって黒暗森林という言葉が出てきます。上巻冒頭で葉文潔と羅輯の対話で出てきた宇宙社会学の話で出てきた「猜疑連鎖」と「技術爆発」という言葉も絡んできます。
宇宙にある文明は他の文明の存在を知ったときにその文明が自分たちにとって友好的かわからず、生物種も物理的な距離も大きな隔たりがある為にコミュニケーションを図ることは困難。また、いつ何時ある文明の技術が大きく発展するかわからず(現に地球は数百年程度で大規模な発展を遂げた)いずれ脅威になるかもしれない。そこから導き出されるのは他の文明を発見したら速やかに滅ぼす。その為に各文明はまるで森林に潜むようにして身を隠さなくてはならない、というのが大まかな黒暗森林という言葉の意味です。
専門的なことは分かりませんでしたので
レイディアスやハインズが破壁人によって告発される場面は専門的な内容が多く、オーディオブックで聴いていたこともあってなかなか理解するのが難しかったです。紙の本も購入したのでわかりにくい所は文字で読んでいこうと思います。